思っているほど自分の判断という物はあてにならんのです。
 自分が駄目だっていう自覚が有るとか、そういうのは一切無関係にして駄目判断は下り続けるのです。そもそも、社交辞令の「私は駄目人間です」という言葉は聞き飽きた。その判断は正しいのですか?俺にはそうは思えません。それはさておき、自分で下す判断というのは時として大間違えだったりするのですが、何と言っても自覚が無いってことが多いよ。多過ぎる。
 年を取ると真っ先に駄目になるのは腰でも膝でもないのです。判断力なのです。
 人は、判断力から順番に死んで行きます。
 例えば、俺の親父がそうですな。
 俺の親父は大腸がん(つうかS字結腸がんなんだがネットで専門的な呼称を書いても意味が無いので大腸がんでいいや)で手術をしたんですよ。まあ人によってはガンは絶対切っちゃ駄目だ!と言う人も居ますが、その判断をするのは医者と病気をやってる本人だっつうの。腹もいたくねえ部外者は黙れ。他人の生き死に判断に口を出すのは一度ガンで死んでみて「ああ。こうすると人は死んじゃうんだ」と知ってからにするべき。という俺の感情は横に置いといて。まあ、そこに至るまでってのが駄目判断の連続だったようです。
 まず疼痛が無いのに便と一緒に出血が見られるようになったらしいのですよ。しかも綺麗な真っ赤な血だったらしくてね、本人はもう完全にブルーだったそうです。
 赤い血なのにブルーとは是如何に。
 結果生きてたから言える冗談はさておき。この出血ありっていう時点では痔とかポリープとかとの区別がつかないので画像所見でも撮らない限り判断はつかない筈なんだけど、ほら、同級生とかバタバタ死んじゃってる年齢だから。もう完全にビビっちゃって「俺はガンだ!終わった!」つって動けなかったらしいですわ。しかも「ガンになったら確実に数年で死ぬ」という先入観がでかくて、確定診断されちゃって病名が決まる事自体が恐ろしくて病院に行けなかったんだとか。結局一年ほどグダグダと悶絶してから死ぬ覚悟で病院へ。かなり進行したガンが見つかったのですが転移はしてないようなので一安心(したのは後で結果を聞いた俺の方の話です)なんだけど、本人はもう、死ぬと思ってるからね、ガンで。
 その告知が有ったとき、俺が実家に呼び出された訳ですよ。で、親父に「俺はもうガンだから死ぬから」と言われたんです。こっちとしては「場所は?」と聞き返す訳ですけどね、もう死ぬ気満々で話にならん。「いや、もうだめなんだよ、ウンコと一緒に出血が止まらないんだ」とか答えるだけでさ。ガンで死ぬ前にテメエの心に殺されてどうするっつうの。
 俺をぶん殴ってたころみたいに無駄に元気出してみろっつうの。
 別に転移とか無いようだし即座に生き死にではないけれど、ただ進行具合をみると下手すると腸に穴が空いちゃう可能性もあるし、ウンコする度に尻から血を出してても面倒くせえので早々に切っちまった方が良いだろう、場所も人工肛門とか付けずに済む場所だしという事で手術するという結論に着地したんですが、なんつうか、患者の心が先に死ぬとは思わなかったのですよ、コッチとしては。いい年したジジイが青くなりながら「どうせ死ぬから手術したくない」とかゴネやがって「こんなもんは今や生活習慣病で肥満と大して変わんないんだから大人しく切ってこい!デカイ痔だと思え!」つって、どうにか病院に放り込みました。面倒くせえ。しかもこの時に実家を継いだ筈の弟は「俺、結婚する!」とか言ってやがって、親父が「俺はもう死ぬ、終わりだ」つってる横で「もう式場とか決めてるんだ!」って言ってバラ色の人生ですよ。聞・け・よ・人の話を。つか、使えよ脳を。しかも、おふくろは何故か俺を「アンタみたいな冷たい人間は居ない!」って怒鳴り散らす有様でさあ、もうねえ、どうなんだろうな、このゲッツさんち見たいな展開は。アレですかね、俺は何か盛大な罰ゲームに巻き込まれているんでしょうかね?
 結局さぁ、切って取ったら本人元気でね。まったく。
 その後、再発も無く五年経過したのでひとまずコノがんは終了。
 退院してからも親父の良くわからない判断が炸裂してました。本人曰く「俺のガンはタバコが原因だ」そうで、そこに何の根拠があるのかは知らないし何よりもう面倒臭いし、俺としては口を出す気は有りませんでしたので放っといた(世のお父様方へ:暴力で躾を行うと、このような親子関係が育ちます。忘れるなかれ!暴力は決して躾けになりません)んですが、勝手に禁煙を始めました。俺自身は禁煙を一発成功させてますから禁煙がつらいという感覚がないのですが、親父は何やら苦しそうにしてました。そうしたら禁煙を失敗したらしく、かといってタバコを堂々と吸い始めるのも格好わるいと思っているようで、最近じゃ隠れて吸うようになりました。
 あのなあ、火事が怖いから普通に吸えっつうの。家の裏でコッソリ吸って、吸い殻を投げ捨てて誤摩化すな。誤摩化されてないから。つか本当に危ないんだよ吸い殻がよお。それと本人解ってないだろうけどヤニ臭いからバレてんだよ。アンタは中学生かっ。
 まあ、これも何が重要なのかの判断がつかなくなったからだろうと思います。
 タバコ関連でも幾つか判断力が腐った例ってのを知ってます。俺の所じゃないんだけど、知人のところで求人をかけたらオッサンが応募してきたんだそうです。一応資格持ってたそうですが、コイツが曲者だったそうです。まず面接に来た時点でヤニ臭い。面接で勝手に喋らせてみたら歯も黄色い。口から普通にヤニの匂いがする。さらに言ってる事が何か変で、つじつまが合わない事を平気で話しだす始末。変な奴だから嫌だなあ、それにタバコを吸う人はお断りだなあ、接客業でもあるわけだし、と思って改めて「あなた、タバコ吸いますか?」と聞いたら「いえ!私はタバコを吸いません!吸った事も有りません!」と。
 他人の体調見るのが職業の人間相手に通じる嘘じゃないわけだよ。
 第一さ、そういう判断力が死んでる人に出来る仕事じゃなかろうよ。更に言うと小嘘つかれるとね、下手すると誰かの生き死にに関わる事も有るわけだよ。当然その場で追放だったそうですが、年齢なんでしょうね、こういう判断力を殺す要因なのは。まあ「タバコは飲むものであって吸うものではないです!」的な駄洒落というか小賢しい言葉尻の話なのでしょうかね? どちらにしても職場には要らない人間ですけど。そういうのは。世の中にはTPOってのがあって、言うべき時、場所ってのがあるわけで、どちらにせよ、その判断をする能力は壊滅的に死んでます。
 
 さて本題。
 先日友人とバスに乗ってました。結構混んで来て椅子は埋まり、立ってる人もみっちり状態に。
 俺と友人は運良く座れたのですが、友人の横に腕をギブスで固めたオバハンが立ちました。友人も俺と同業者ですから、状態は見りゃ解る訳ですよ。ギブスの構造とか状態からね、中身の容態は有る程度ではあるが推測は出来ると言う事です。ですから友人は「私は別に構わないので席を譲りましょう」とオバハンに声をかけたんです。つまり友人は「立たせとくとアウト」と判断したわけです。
 そのオバハンの返答が面白かった。
 オバハンは何故かテンパり気味に「大丈夫です!」と即答。まあ、そりゃ貴方の好き勝手ですからね、好きにしたら良い。でも友人は「とはいいますが、この先結構揺れますよ?」と一言添えたらオバハンは何か気に触ったのか「私は腕は怪我をしてるけど足腰は丈夫なんですよ!私、こう見えても山に登ってますから!」と。以下が面白会話。
友人「凄いですね、どちらの山に登るのですか?」
オバハン「高尾山とかに登ってるんですよ。ですから足腰は丈夫でバスの揺れとか平気なんです」
友人「おー、それは凄いですねえ。もう長くやってらっしゃるんですか?」
オバハン「長くっていうほどでもないですけど、色々と行くんですよ?」
友人「やはりそういう登山グループ見たいのがあって、皆さんで登るんですか?」
オバハン「ええ、ハイカーの会があって、そちらで皆で登るんです。山は良いですよ」
友人「それでは手が不自由ですと大変ですね。手の方はもしかして登山で?」
オバハン「ええ、これはこの前の登山で転んだんですよ」
友人「あらあら。それは危なかったですねえ。」
オバハン「そうですよ。高尾山でも危険なんですよ。私はいつも山に登る時水筒に水を入れて岩塩も持って行くんですよ。岩塩を舐めながら登るんです。登山をすると汗が出るから水は沢山飲むんですよ。ご存知?」
友人「いやあ、私は山登りはしませんので。でも岩塩は何に使うんですか?」
オバハン「震えを止めるんですよ。登山をしてると汗が出て手が震えてくるんです。そうしたら舐めるんです」
友人「ほう、岩塩を、ですかあ。スポーツドリンクとかはお持ちにならないんですか?」
オバハン「ああいうのは薬品が入ってますでしょ? やはり岩塩ですよ。私も先週高尾山に登った時に手が震えて来て急いで岩塩を舐めたんですが、足がガタガタしちゃって転んじゃったんです。でも顔を打つ前に手で守ったから手を折っちゃったんですよ」
友人「それは災難でしたね」
 
 見る人が見れば解るけど、この会話は問診ですよね。さすがだと思いました。
 さて。
 まずね、折って一週間しか経ってないってのは大丈夫とは言えない。開放性ではなさそうだから比較的軽症の部類に入るんだろうけど、年齢的に考えて、さらに女性という性差も考慮する(つまり骨粗鬆症の可能性を持ってる筈だよな。しかも転んで骨折してるってことは元より骨の状態が悪いと言えそうだから骨粗鬆症傾向の可能性は相当大きい云々という面倒な話は、どっかのでっかい病院の頭のいい人に聞いて下さい。もう書いてて面倒)と骨はまだくっ付いてないはず。何かの拍子にポッキリ行っちまう可能性は大きい。例えば、バスが揺れて足下がグラっときて椅子に手をぶつけた衝撃とか、な。っていうかさあ、ハイキングと登山を区別しろってば。オバハンのやってるのは登山じゃないだろ、多分。広い意味では登山かもしれんけど、社会的にそれはハイキングだろ。ハイカーが集まってんだし。本物の登山家が聞いたらカチンとくると思うぞ。次に足腰が弱ってるからハイキングで転ぶのであって決して足腰は丈夫じゃねえ。そもそも足腰が丈夫な奴ならバスに乗るなよ、歩けって。さらに言うと、長時間運動するならスポーツドリンクを持って行け。汗でナトリウムが過剰に排泄されてアルカローシス状態になるから痙攣がおこってるんだからさ、吸収の早いスポーツドリンクは、ある意味決定打であって岩塩なんか要らない。ついでに言うと、水とミネラルは痙攣を起こす前にコマメに摂取しろよ熱中症も怖い時期なんだから。そもそも発汗が原因で体内のナトリウムが過剰に出てっちゃった状態で「水分補給!」とか言ってガバガバ水飲んだら低ナトリウム血症にだってなるだろうよ。手足の震えがどうとか言ってるのは、これじゃねえのか?おい。ついでに言うと、バスに乗っている現時点でも相当気温が高く汗がでてるようだが、オバハン岩塩持ってんの?今。舐めた?岩塩。スポーツドリンクは? ミネラル採ってないってことは、バスに乗ってる最中に来る可能性もあるよな、痙攣。
 っていうかオバハン全然大丈夫じゃないよね?あらゆる事柄全般的に。俺には「運動不足の人が適当知識を得て近所の山にハイキングに出かけたら足腰にガタが来て思いっくそ転倒の挙げ句に骨折して、後日他人の親切を踏んづけてる」ようにしか見えないんだが。
 というね、判断をした俺の判断力も死んでいる可能性が高いのです。
 だれか俺に判断力を下さい。